登場人物
佐々木 圭吾(ささき けいご)
年齢: 50代後半
職業: 特別養護老人ホーム「緑風苑」施設長
性格: 厳しくも温かい、責任感の強いリーダー。時に冷徹に見えるが、利用者や職員への深い愛情を持っている。
背景:
- 介護士としてのキャリアをスタートし、現場経験を積んできた。
- 若き日に支えきれなかった利用者の死(野村すみれ) により、「支えることの意味」を問い続けるようになった。
- 介護士個人の努力だけでは救えない現実を痛感し、施設運営に関わる道を選び、管理職となる。
- 藤田亮の成長を厳しく見守るが、その姿にかつての自分を重ねている。
- 彼自身も、まだ「支えること」の答えを探し続けている。
藤田 亮(ふじた りょう)
年齢: 30代前半
職業: 介護施設「緑風苑」相談員
性格: 穏やかで優しいが、自分の意見を表に出すのが苦手。相手の気持ちに寄り添うことはできるが、自らの役割を見つけられずにいる。
背景:
- 幼少期、アルコール依存の父に怯えながら育ち、家族との距離を取るようになった。
- 不登校の経験を持ち、社会との関わりに苦手意識を持っていたが、介護の仕事を通じて少しずつ変わり始める。
- 相談員という立場に身を置くも、「支える」とは何かを理解できずにいる。
- 佐々木施設長から厳しく指導されるが、彼の言葉の奥にある想いを次第に理解していく。
- 過去の影を振り払いながら、「自分ができる支え方」を模索していく。
野村 すみれ(のむら すみれ)
年齢: 80代(故人)
職業: 元主婦(施設入居者)
性格: 穏やかで優しく、どこか寂しげな雰囲気をまとっていた。
背景:
- 認知症を患い、息子の存在が記憶の中で生き続けていた。
- 「息子が迎えに来る」と信じ続け、毎日窓の外を眺めていた。
- 佐々木との交流の中で、一時の安らぎを得るが、彼が夜勤ではなかった夜に、一人で息を引き取る。
- 彼女の死は、佐々木に「支えることの限界と現実」を突きつけ、彼を管理職の道へ進ませる契機となった。
- 物語を通して、彼女の存在が佐々木の「消えぬ影」として心に残り続ける。
第1章:若き日の理想と現実
佐々木圭吾が介護の世界に飛び込んだのは、今から30年以上前のことだった。
「人の役に立ちたい」「お年寄りが安心して暮らせる場所を作りたい」—— そんな純粋な思いを胸に、特別養護老人ホームの介護士として働き始めた。
しかし、現場は想像以上に厳しかった。
- 慢性的な人手不足 により、一人あたりの業務量が膨大だった。
- 過酷な夜勤 による疲労で、職員の離職が後を絶たなかった。
- 利用者の死に向き合う重さ に、心が追いつかなかった。
それでも、佐々木は 「自分が支えれば、この人たちは安心できるはずだ」 と信じ、ひたむきに利用者と向き合い続けた。
第2章:ある認知症の女性との出会い
佐々木が新人の頃、担当した利用者の中に 「野村 すみれ」 という女性がいた。
📝 野村 すみれ(80代前半)
- 状態: 進行性の認知症、家族とは疎遠。
- 特徴: いつも窓の外を眺め、「迎えに来るはずの家族」を待っていた。
すみれは、認知症が進行するにつれて、家族の記憶が曖昧になり、毎日のように「家に帰りたい」と訴え続けた。
「息子が迎えに来るのよ。きっと、今日も……」
彼女の息子はすでに亡くなっていた。
しかし、彼女の中では、息子はまだどこかにいて、自分を迎えに来るはずだった。
佐々木は、そんな彼女に 優しく話しかけるのが日課 だった。
「おばあちゃん、今日も窓の外を見てるんですね」
「そうなのよ。息子がね、今日は来るはずなの。でも、どうしてかしら……なかなか来ないの」
彼女の言葉に どう答えるべきか、佐々木は迷った。
第3章:すみれの「家族」としての佐々木
ある日、すみれの部屋を訪れると、彼女は静かに涙を流していた。
「……息子が迎えに来ないのよ。私、もうここにいちゃダメなんじゃないかしら?」
その言葉を聞いた佐々木は、思わずこう言ってしまった。
「すみれさん、大丈夫ですよ。きっと明日は来ますから」
「本当?」
「ええ、きっと……」
佐々木は、何とか彼女を安心させたかった。
それが、本当のことではないとわかっていても。
彼は、介護士として、「現実を伝えること」よりも、「目の前の人を安心させること」 を選んだ。
第4章:すみれの最期と、佐々木の後悔
それから数ヶ月後のある日。
佐々木は、施設での連勤が続き、久しぶりに夜勤を外れて休みを取ることになった。
「すみれさん、今日は夜勤じゃないので帰りますね。また明日来ますから」
「そう……。じゃあ、明日は息子が迎えに来るかしら?」
「ええ、きっと」
彼は微笑み、すみれの部屋を後にした。
しかし、その夜、彼女は一人で亡くなった。
夜勤の職員が朝になって異変に気づいた時、彼女はすでに冷たくなっていた。
第5章:佐々木を襲う無力感
「すみれさん……」
彼は、彼女のベッドのそばで呆然と立ち尽くした。
「俺は、何もできなかったんじゃないか……?」
彼女が息を引き取ったのは、彼がいなかった夜 だった。
- もっと早く、もっと違う形で支えられたのではないか?
- 彼女の「家族」として寄り添ったつもりだったが、それは彼女を本当に救うことになったのか?
その日から、彼は施設で働くことが 辛くなった。
「支えること」の意味を考え続ける日々が続いた。
第6章:管理職を目指した理由
佐々木はある日、気づいた。
「俺一人が頑張っても、救えない人がいる」
介護は、一人の力では支えきれない。
介護士個人の努力だけではなく、施設全体で環境を整えることが大切だ と考えるようになった。
そして、彼は施設運営に携わる道を選び、やがて 「緑風苑」 の施設長となった。
しかし、心のどこかで、まだ「支えることの意味」を模索し続けていた。
第7章:亮との出会いと、佐々木の期待
亮が「緑風苑」に相談員として入職したとき、佐々木は 「昔の自分と似ている」 と思った。
「人の話を聞くのはうまいが、自分の意見を持っていない」
「利用者に寄り添う気持ちはあるが、どう支えればいいのかわからない」
だからこそ、佐々木は亮に厳しく接した。
「亮、お前は相談員だ。利用者やその家族に、どうしたら安心できるかを考えろ」
亮は最初、その言葉に反発した。
「支えるって、どういうことですか?」
「それを考えるのが、お前の仕事だ」
最終章:消えぬ影と、新たな光
ある日、亮は家族からの相談を受けた。
「母がここで過ごすのはいいんですが、私たちがどう接していいのかわからなくて……」
以前の亮なら、ただ話を聞くだけだった。
しかし、この日、彼はこう言った。
「ご家族が一緒に関わることが、一番の支えになります。」
佐々木は、その様子を見て、静かに微笑んだ。
「亮、お前も少しは『支えること』がわかってきたようだな」
―― 過去の影は消えないが、それでも、灯る光がある。
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