『灯る光 〜支えることの意味〜』執筆の裏側

灯る光執筆の裏側 創作の裏側

“支える”とは何か。その答えを探し続けた物語の舞台裏

「人を支えるって、どういうことなんだろう?」

この物語を書き始める前、私は何度も自分に問いかけていました。介護の現場、家族の中、社会の中――誰かを支えることは、誰かに頼られることでもあり、自分を見失うことでもある。矛盾の中で葛藤しながら、それでも人は誰かの力になりたいと願う。その姿こそが、人間の美しさなのではないか。そう思ったのが、執筆の出発点でした。

なぜ「相談員」亮を主軸にしたのか

亮という人物は、もともと前作『沈まぬ影』の脇役的存在でした。父の暴言と家庭崩壊の中で育ち、不登校を経験した過去を持つ。そんな彼が、再び人と向き合う立場になる「相談員」という仕事に就く姿に、大きなドラマがあるのではないかと感じたのです。

相談員という職種は、実はとても難しい立場にあります。介護職と違い、直接ケアに関わる場面は少ない一方で、利用者や家族の「人生」に寄り添う責任がある。相手の話を聞くだけでなく、時に「正しい判断」を下す必要があり、時に「無力さ」と直面することもある。

だからこそ、亮のように「人との距離感」に悩んできた人物が、その職に就くことは、とても象徴的であり、希望のあるテーマになると考えました。

 厳しい上司・佐々木圭吾という存在

佐々木施設長は、一見すると「昔気質の怖い上司」に見えるかもしれません。でも、その背後には「介護士時代に看取れなかった利用者」への後悔がある――この設定は、実際に多くの現場で耳にする話をヒントにしています。

介護の世界では、命と隣り合わせの場面がある。最期の瞬間に誰かがそばにいられたか、それだけで職員の心に長く残ることがあります。

佐々木は、そうした「見送れなかった命」を抱えながら、次の世代に何を残せるかを考えている男です。亮に厳しい言葉をかけるのも、「人の人生に関わる責任」を肌で知っているから。彼の言動の根底には、誰よりも深い優しさがあります。

「支える」というテーマを通して描きたかったこと

タイトルにもなっている「支えることの意味」。これは、単に他者に尽くすことではなく、「自分の過去と向き合いながら、共に歩むこと」だと、私は考えています。

たとえば、亮は「相談員として支える」立場になったことで、かえって自分の傷と向き合うことになります。健太は「介護福祉士として支える」中で、自分がずっと「父を許せない自分」に縛られていたことに気づきます。

支えるとは、単なる親切でも奉仕でもありません。「相手を受け入れる覚悟」と「自分を理解する勇気」、その両方が必要なんだと、彼らの姿を通して伝えたかったのです。

実際の介護現場に寄せた描写

この作品では、介護の描写にも細かく気を配りました。相談員と家族のやりとり、職員間の連携、高齢者との距離の取り方――どれも現実に存在する場面です。

「ここまでリアルに描いていいのだろうか?」と迷うこともありましたが、あえて”キレイごとでは済まされない現場”を描くことで、読者に現実の重みと希望を感じてもらいたかった。

それでも、救いのある物語にしたかった。それが「灯る光」というタイトルに込めた想いです。

読者へのメッセージ

この物語は、誰か特定のモデルがいるわけではありません。けれど、亮や健太、佐々木や高橋の姿は、現代の介護や家族、そして”過去を抱えて生きるすべての人”の中にきっと存在していると思います。

「人を支える」って、どういうことだろう?
「自分は誰かの力になれているのだろうか?」

そんな問いを持つすべての方に、この物語が少しでも寄り添うことができたなら――それ以上の喜びはありません。

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